肛門部と、その周辺部分の疾患をまとめて痔といいます。裂肛、痔核、痔ろうの3種類が9割をしめます。痛み、出血、腫れ、脱肛、かゆみなどさまざまな症状があり、ときには化膿して便が漏れることもあります。痔の発症には生活習慣が大きく関わっていますので、痔を治すためには生活習慣、なかでも便秘と下痢の改善が何より大切です。
痔のほとんどは便秘や下痢がきっかけです。便秘のときの便は硬くなります。この硬い便を無理やり出そうとして強く力むと、肛門の皮膚が切れる裂肛やうっ血を起こしてイボができる痔核の原因になります。また下痢が原因になることも多く、勢いよく出る便や排便の回数が増えることで痔を悪化させたり、細菌に感染して痔ろうを引き起こすことがあります。
車のドライバーやパソコン作業のデスクワークのように、座ったままでいるような仕事はお尻に負担がかかります。また美容師や販売員、板前のように立ったままの仕事も腹圧をかけることが多く、お尻がうっ血しやすくなります。重いものを持ち上げたり、運ぶような仕事も同様で注意が必要です。
お酒の飲みすぎは下痢を招きやすくするとともに、生活のリズムも乱します。食べすぎや偏食はもちろん、刺激の強い香辛料のとりすぎも肛門部のうっ血の原因となり、痔を誘発することになります。
運動不足や冷えは下腹部の血行不良を招き、肛門に負担をかけます。また、ストレスによって自律神経が乱れることでも肛門の血行不良が起こり、痔を引き起こしたり、悪化させることがあります。また、肛門部を不潔にしていると、肛門に炎症が起こりやすくなり、痔を誘発することがあります。
妊娠によって子宮が大きくなると、肛門の圧迫や骨盤内のうっ血によって血行が悪くなり痔の原因になります。さらに出産の際にも強く力むので、痔を発生させたり悪化させたりすることになります。
肛門の皮膚が硬い便との摩擦で傷つき、それが続くと傷が深くなって強い痛みと出血を引き起こします。排便のたびに激しく痛むために、排便を我慢し便秘となって再び肛門を傷つけるという悪循環に陥りがちです。
肛門と直腸の境界周辺の粘膜の下には血管が密集しています。その血管がうっ血を起こし、それが膨らんでイボ状の塊になるのが痔核です。この塊が直腸の内側にできるのが内痔核で、痛みを感じることは少なく、排便時に大量の血が出ることもあります。そして肛門の外側にできるのが外痔核です。ある日突然、しこりのような塊ができて激しい痛みをともないます。
主に下痢が原因となって直腸から肛門の周囲の粘膜に傷がつき、大腸菌などの細菌が侵入して、炎症が起こり、膿が溜まります。膿は自然に皮膚をやぶって外に流れだします。痔ろうの初期段階です。肛門の周囲にしこりや腫れがあらわれ、同時に肛門周囲の灼熱感や痛みを感じます。また高熱や寒気、吐き気などの症状をともない、ときには40℃以上の高熱になることもあります。
肛門周囲膿瘍を放置していると、膿が自然に皮膚を破って外に流れだします。この膿が流れ出た通り道が肛門の周りに残るのが痔ろうです。溜まった膿が外に出ると症状は楽になりますが、常に膿が出たりするため、下着が汚れて不快感があります。放っておくと段々とひどくなり、自然に治ることはありません。
便秘は痔の一番の原因です。お通じが定期的にないのは自分のライフスタイルに問題があるのかもしれません。とくに朝は便意を感じやすい時間帯ですが、このときに支度が忙しくて便意を我慢するような生活をしていては便秘を招きます。早めに寝て生活にメリハリをつけ排便のリズムをつくりましょう。
朝食を抜くと、痔の大きな原因である便秘になりやすくなります。しっかり朝食をとれば胃が動き出し、大腸も活動しますので、毎日排便のある生活ができます。また食事は食物繊維を意識して食べましょう。食物繊維は消化されず、大腸の運動を刺激して、排便をスムーズにします。暴飲暴食や多量のアルコールは下痢の元になりますので、控えるようにしましょう。
痔の予防には同じ姿勢を長時間続けないことが大事です。座りっぱなし、立ちっぱなしのときは、少しでも休憩タイムを作って体を伸ばしたり、肩を上下、足の屈伸などを心がけましょう。座ったまま動けないようなときは、ちょっと腰を浮かせてみるだけでも、お尻にかかる体重から解放され血行が戻ります。
日常生活のポイントは便秘を改善することです。排便のときの痛みを考えると躊躇しがちですが、便意があったらすぐにトイレに行き、5分以上力まない習慣をつけましょう。排便後も痛みが消えないときは、楽な姿勢で肛門を中心に温めると痛みが緩和されます。
症状が緩和したら日常生活に適度な運動を取り入れることです。また買物などでもクルマやエスカレーター、エレベーターをなるべく使わないで歩き、体を積極的に動かす習慣をつけることが大切です。またできる限り毎日入浴か座浴で肛門の清潔を保ち、血行を良くしておくと効果的です。
肛門に炎症や痛みがあるときは安静にして、お尻に氷や冷却シートなどをあてて冷やすと痛みが緩和します。排便後は温水洗浄便座を使ったり、入浴をして肛門の汚れを取り除いておき、清潔に保つようにしましょう。入浴の他に肛門の清潔を保つ方法として座浴があります。ぬるま湯をはった洗面器にお尻をつけ、ガーゼなどの柔らかい布でお尻をやさしく洗いましょう。またアルコールも適量にして、十分な睡眠をとり過労を避けましょう。下痢をしないような食生活を心がけることも重要です。
痔の痛みが長く続いたり、出血が多い場合や肛門周囲膿瘍、痔ろうが疑われるときは肛門科で診察を受けましょう。
肛門やその周辺のかゆみには、疾患で起こるものと、疾患に関わらず肛門付近の汚れや汗による刺激などによって起こるものがあります。これらのかゆみを耐え切れずにかきむしるようなことがあると、皮膚に湿疹やかぶれを引き起こす原因にもなります。
誰もが一度は感じたことのある肛門のかゆみの多くは、排便後の拭き残しによるものです。しかし、肛門の内側にむずがゆさを感じるときは、直腸に便が残っていることが考えられます。肛門の内側に残った便が刺激となってかゆみを引き起こします。
高温多湿の環境は汗が出やすくなります。汗の量が増えていくと、皮膚にある汗の通り道や出口が詰まり、汗が体の外に排出されず周辺の組織を刺激してかゆみや炎症反応が起きることがあります。夏の暑い時期に締め付ける下着をはくことで蒸れたり、赤ちゃんではおむつの刺激によってかゆみが起こります。
肛門付近の血管がうっ血を起こし、それがイボ状の塊になるのが痔核です。イボから出る血液や粘液で肛門の周囲がベタベタし、かゆみをともなうことがあります。痔ろうは、下痢などによる肛門周囲の傷が細菌に感染して炎症が起こり、膿が溜まり、激しい痛みが生じます。溜まった膿が皮膚を破って外に出ると、下着が膿で汚れて、かゆみを感じることがあります。
子どもに多くみられる疾患で、ぎょう虫という寄生虫が口から入ることで感染します。とくに目立った症状はありませんが、肛門付近にかゆみが起こり、かきむしってしまう子どももいます。子どもの場合、肛門部をかいた手を口の中に入れてしまい、ぎょう虫の卵が体の中に入って再感染を起こすこともあります。ぎょう虫は夜になると肛門から這い出し、肛門の周りに卵を産みつけるので、かゆみは夜に起こります。
主に薬品や化粧品、衣類など触れたものの刺激によって起こり、皮膚がかぶれ、かゆくなります。肛門やその周辺のかゆみの原因としては石鹸や下着の刺激、生理用品などが考えられます。また、赤ちゃんのいる家庭では一番身近なのが、オムツかぶれです。便や尿の回数が多い新生児や、下痢のとき、長時間おむつをつけっぱなしにしていることで、赤いブツブツなどの炎症を起こします。
この疾患は、女性と男性では原因も症状も異なります。女性は主に過労や妊娠などによって体力や抵抗力が落ちたときに、膣に棲んでいるカンジダ菌が異常に増殖して起こります。性器が赤く腫れて強いかゆみを感じ、チーズや酒かすのような白いおりものが出ることが特徴です。男性はカンジダに感染している女性との性交渉によって感染し、症状が出ないことがほとんどですが、まれに性器にかゆみやただれ、水ぶくれが生じることがあります。男女ともに、性器だけではなく肛門周辺にもかゆみが起こることがあります。
排便後は、便をしっかりと拭きとる必要があります。しかし、やみくもに拭いていては摩擦によって肛門が傷ついてしまいます。優しく、ていねいに押さえるようにお尻を拭きましょう。よく便が毛に付着してかゆくなるという場合は、お尻用のウェットティッシュなどで拭くといいでしょう。また、排便の際には内側に便が残らないように、意識して最後まで便を出し切りましょう。
痔の大きな原因は、肛門の血行不良です。38~40℃くらいのお湯にゆっくりつかったり、シャワーでお尻を温めることで、血行を良くしましょう。また、長時間座りっぱなしや立ちっぱなしの仕事の人は、時折軽く伸びをしたり、膝を曲げ伸ばしして血行を良くするように心がけましょう。
特定の石鹸や下着、生理用品などでかぶれるようなときは、その成分や素材に対するアレルギーがあると考えられますので、、原因と思われるものの使用を避けましょう。また、下着に残っている洗剤がかぶれの原因となることもありますので、注意しましょう。
お年寄りや赤ちゃんのおむつかぶれを予防するには、こまめにおむつを交換することが大切です。また、衣類は通気性、吸水性の良い綿のものにして、汗をかかないような室温・湿度に調整してあげましょう。
日常生活のポイントは便秘を改善することです。排便のときの痛みを考えると躊躇しがちですが、便意があったらすぐにトイレに行き、5分以上力まない習慣をつけましょう。排便後も痛みが消えないときは、楽な姿勢で肛門を中心に温めると痛みが緩和されます。
お尻や肛門のかゆみが続くようなときや、強い炎症やかぶれがあらわれたときは、皮膚科や肛門科で診察を受けましょう。